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介護保険の利用者負担はどうなるか?


  政府がかかげる社会保障制度改革の工程スケジュールでは、2018(平成30)年度に、再び介護保険制度の見直しが予定されています。その見直しの具体的な方向性を検討しているのが、社会保障審議会の介護保険部会です。一般の報道では、軽度者(要介護2以下)の人の福祉用具レンタルなどへの給付削減がクローズアップされていますが、利用者にとってもう一つの注目点となるのがサービス利用時の負担額・割合がどうなるのかという点ではないでしょうか。


「利用者負担見直し」の建議

  今年5月、財務省の財政制度等審議会が、財務大臣あてに「『経済・財政再生計画』の着実な実施に向けた建議」を提出しました。この建議書の工程をどこまで反映させるのかが介護保険部会の議論でも1つの焦点となります。ちなみに、建議書で示された「利用者負担のあり方」については、以下のようになっています。

  一つは、介護保険における利用者負担の割合ですが、65歳以上74歳以下の高齢者について、医療制度との均衡をふまえ「原則2割負担化」への見直しを実施すべきというものです。直近の改正では、2015年8月から65歳以上の「一定以上所得がある利用者」について、1割から2割への負担アップとなっています。この「一定以上所得者」とは、「単身で年金収入のみなら年収280万円以上」というのが原則ラインです(例外あり)。この範囲をさらに広げるというのが見直しの趣旨であり、建議ではさらに「75歳以上の高齢者に対しても原則2割負担の導入を検討すべき」としています。また、月あたりの自己負担限度額(それを超えた場合は高額介護サービス費として払い戻される)も、高額介護療養費と同水準まで引き上げるべきという建議も行われています。


更なる検討課題とは

  そして、もう一つの「利用者負担」にかかる検討課題が、介護保険施設等を利用した場合の居住費・食費にかかる補足給付の可否にかかる判定基準です。施設等の居住費・食費については給付外の自己負担となりますが、所得段階によっては一定額以上の部分に介護保険からの補足給付がなされます。その所得段階の判定に関し、本人の所得以外で勘案すべき要素をどこまで広げるかが焦点となります。こちらの直近改正では、やはり2015年8月より本人所得に加え、預貯金や(世帯分離にかかわらず)配偶者の所得も勘案されることになりました。

   この時の改正では、もう1つ勘案事項として「固定資産税評価額で2,000万円以上の宅地を所有する者を対象とする」という案が出ていましたが、現行制度には反映されていません。仮にこれが勘案された場合の救済策として、宅地を担保とした居住費・食費分の貸付を行うというアイデアが出ていましたが、やはり実施には至りませんでした。不動産価値の下落や金利上昇のリスクなどもあり、スキームの確立が困難とされたことが背景にあります。ところが、今回の介護保険部会では、再びこの課題が取り上げられ、貸付スキームにかかる実務的課題などが引き続き検討されることになりました。

   気になるのは、預貯金勘案などの実施による影響がすでに見られることです。2015年度の介護給付費実態調査を見ると、やはり居住費・食費の自己負担が発生する短期入所(ショートステイ)サービスの受給者が対前年度比でマイナスに転じています。短期入所といえば、家族介護者のレスパイト(休息)には欠かせないサービスですが、その利用控えが生じているのだとすれば大きな議論となるでしょう。今後も施策の影響を慎重に見守ることが必要ですね。


(筆者: 田中 元 介護福祉ジャーナリスト)

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