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改正道交法施行。認知症判定の流れを再確認


  道路交通法では、75歳以上のドライバーに高齢者講習の受講を義務づけています。その受講者数は10年前の1.6倍以上、交通死亡事故の年齢別割合でも75歳以上は10年前の2倍以上となっています。「高齢者ドライバーの事故=認知症が原因」という一括りは早計ですが、少なくとも国は「高齢による認知機能の低下」を大きな課題とし、平成21年6月に75歳以上のドライバーの免許更新に際して認知機能検査を義務づけました。しかし、その後も高齢ドライバーの逆走事故などが社会問題となる中、道交法のさらなる見直しが図られ、改正法が平成29年3月12日より施行されています。


一定の違反行為がなくても臨時適性検査か診断書を要する

  まずは、旧制度から何が変わったのかを改めて整理してみましょう。75歳以上のドライバーが免許更新をする際に、①約30分間の認知機能検査を受けること、②認知機能検査の結果は3つに分類(1分類が「認知症のおそれがある者」、2分類が「認知機能が低下しているおそれがある者」、3分類が「1、2分類のおそれがない者」)される点に変わりはありません。

  変わったのは、1分類とされた人に対し、臨時適性検査を受けるか、都道府県公安委員会の命令による主治医等の診断書提出が定められた点です。臨時適性検査とは、公安委員会が指定した認知症専門医の診断を受けるというもの。ちなみに、診断書提出命令に関しても、診断医は「認知症に関して専門的な知識を有する医師等」とされています。これまでは、1分類とされたドライバーでも、一定の違反行為等(更新後または更新満了日1年前以後)がなければ臨時適性検査を受ける必要はありませんでした。これが、一定の違反行為がなくても適用されることになったわけです。

  さらに、一定の違反行為があった人に対しては、3年の免許更新を待たずに臨時の認知機能検査と高齢者講習(個別指導と実車指導)が義務づけられました。また、違反行為がない人でも、認知機能検査によって1、2分類とされた場合は、その後の高齢者講習が2時間半から3時間への拡充がなされています。なお、3分類とされた人の高齢者講習は逆に2時間へと短縮されましたが、手数料も1、2分類の講習と比較した場合に2,900円安くなっており、このあたりはメリハリをつけたことになります。


臨時適性検査制度の見直しによる対象者増加にどう対応する?

  さて、注目点はやはり、一定の違反行為がなくても「臨時適性検査」もしくは「医師の診断書の提出命令」が定められたことでしょう。日本医師会(以下、日医)では、今回の改正によって臨時適性検査等の対象者が4~5万人に達すると推計しています。平成27年度が1,650人なので、最大約30倍となるわけです。問題は地域で対応できる認知症専門医がそれだけいるのかどうか。警察庁交通局でも、一部の専門医や指定医から「臨時適性検査のみならず、診断書提出命令も含めて、対応困難」等の危惧が寄せられたとしています。そこで、警察庁では日医に対して、制度の円滑な運営のための協力を依頼。日医側も、警察庁が示したモデル診断書様式や記載ガイドラインを各都道府県医師会に示したうえで、手引きを作成・提示するという動きを見せています。

  仮に診断側のキャパシティをオーバーすれば、「主治医なら(認知症に対する知識を問わず)誰でもいい」という状況で診断が進む恐れはないのかどうか。制度の実効性を担保するうえでも、国をあげての認知症専門医育成などの対応が急務になるといえるでしょう。


(筆者: 田中 元 介護福祉ジャーナリスト)

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